以下は、オリコン・メディカル社が出版した冊子「患者が決めた!いい病院」について、平成15年11月20日付で当会がオリコン・メディカル社に送付した文書です。 「患者が決めた!いい病院」は、調査方法に統計的な問題を含む重大な問題があり、そうした調査にもとづけ医療機関のランク付けは患者をミスリードするものであることについて正し、サンプル数の公開を求めています。
平成15年11月20日
東京都港区六本木六丁目8番10号
オリコン・メディカル株式会社
代表取締役 小池恒右 様
東京都清瀬市元町二丁目2番20号
医療法人社団レニア会
理事長 武谷ピニロピ
本状において、当会は、貴社が平成15年9月1日に刊行した「患者が決めた!いい病院」について、その調査方法等の問題性を指摘するとともに、貴社の姿勢に対して抗議および警告し、サンプル数の公開等の申入を行うものです。
貴社のインターネットサイト
によれば、同書は、「医療ミスが多発している現在、いざ自分や自分の家族が病気になったとき、どこの医療機関のどの医師を選べば安心なのか」についての情報を提供するために 「東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の病院や診療所(クリニック)などの医療機関を利用した患者9万人を対象にアンケートを敢行」したとのことです。
調査は、2003年2月から6月の間に、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に在住するインターネットモニターより無作為に抽出された18歳以上の男女9万人に対する「インターネットによるアンケート」を実施され、6万5424件の有効回答数を得たとあります。
貴社のサイト
によれば、貴社は、調査対象となった方々に、「患者として実際に受診してみて、「ここはお薦めです。」と他の人に推薦したいと思うような医療機関をあげてもらい」、さらに、「受診状況(外来、入院、健診、救急)について回答してもらった上で、そのお薦め病院や診療所について、(所定の項目について)満足度を評価して」もらい、それをランキングにしたとのことです。
質問した項目と配点は以下の通りです。
A
診療全般(100点満点)
B
医師の技術や医療水準(10点満点)
C
医師の説明の丁寧さ、理解しやすさ(10点満点)
D
スタッフ(看護師、受付)の明るさ、親切さ(10点満点)
E
設備の清潔さ、使いやすさ(10点満点)
F
交通の便の良さ(10点満点)
G
患者のプライバシーへの配慮(10点満点)
H
待ち時間(10点満点)
ランキングを作成するに当たっては:
各回答毎に、上記A〜Hの評価項目の満足度を合算して、○○病院△△科のポイントとしました。その際、Aのポイントを30点満点に換算して、合算後のポイントを100点満点で取り扱うこととしました。
同一の○○病院△△科について、ポイントを集めて平均値を求め、満足度としました。
10票以上を集めた○○病院△△科を対象として、診療科別に満足度ランキングを出しました。
20票以上を集めた○○病院△△科については、すべての診療科を包括した総合満足度ランキングの対象としました。
救急で受診した回答を別途集計して、医療機関毎のランキングを出しました。
上記B〜Hの各項目(Fは除く)について、すべての診療科を包括してそれぞれのランキングを出しました。
とあります。
貴社は、今回の調査を、「患者9万人にアンケートを実施し、長年のマーケティング手法を駆使しながら、患者の視点に立った情報を客観的かつ公平に評価し、わかりやすくランキングしました。 これは日本初の試みで、患者の声を的確に反映しているものと自負」しているとのことです。
しかしながら貴社の調査は、様々な点で正当性を欠くように思えます。例えば、次にあげる事柄は調査において極めて問題な点と考えます。
サンプル数が公開されていない。10票以上の得票を得た医療機関をランキングにのせているとあるが、どの医療機関が何票とっているかが公開されていない。統計学的に正当な調査とは言い難い。
調査対象者がインターネットユーザーに限定されている。それ故に、ランキングはネットユーザーの医療機関への選好しか反映していない。医療機関を最も利用するお年寄りや子供の選好が反映されていない可能性が高い。
取り扱う疾病の重症度等、機能も役割も異なる医療機関――例えば大病院と診療所――が同じ土俵で評価されている。
評価項目にウエィト付けがされていない。例えば、「交通の便の良さ」と「医師の技術や医療水準」が同じウエィトで評価されている。
以上の問題から、明らかに診療所優位の結果を導くバイアスがある。
特に、一番目の問題は決定的と考えます。ランキングに掲載のための最低サンプル数は10票となっていますが、どの医療機関が何票取ったかの記載はありません。例えば、Aという医療機関については10人の人が答え、Bの医療機関については100人ということもありえます。そのようなサンプルにおいてAとBを比較することは、統計学上の問題が生じます。 つまり、最低サンプル数の10票という数は大変少なく、これだと統計学的な信頼性は極めて低いと言えます。誤差が大きくものを言うからです。
例えば、産科のランキングを見ると次のようになっています。
90点から100点まで
:
2件
80点から90点まで
:
102件
80点未満
:
19件
実に80点〜90点のレンジに、約100件もの医療機関が0.1点刻みでランク付けされています。これは異常としかいいようがありません。 調査方法のところに10票以上の医療機関が掲載されていると書かれていますので、仮に掲載されたそれぞれの医療機関の得票数を10票として考えます。 この場合、0.1点の違いというのは、ある1票の点数の1点でしかありません。100点満点の1点ですのでほとんど誤差程度のものと考えることができます。 実際、1点や2点ぐらいの違いはサンプルのバイアスによって簡単に生じてしまいます。 ところがその1点や2点で順位が大きくひっくり返ってしまうのです。
例えば、10票のうち一人が、異常に厳しい点数をつければ、結果として現れる「満足度」には大きな影響を与えます。 その人が対象となる医療機関に恨みがある等の特段の感情がなくとも、その人の点数付けが他の人にくらべて厳しいということはあり得ます。 例えば、ある人が好意をもってつけた採点が、平均的な人が批判的な態度でつけた採点と同じぐらいということはあり得ます。 10人のサンプルにこうした人が一人紛れ込めば、評価は大きく下がります。逆に、運良く回答者全員が甘い採点基準をもっていればその医療機関は上位に来ます。
正当な統計調査においては、こうしたエラーの可能性を無くすために、ある程度以上大きなサンプル数をとります。 また、調査報告においては、こうした初歩的なエラーがないということを明らかにするためにサンプル数は厳密に報告されます。これは統計学上のイロハです。 貴社の調査では、サンプル数の最低数が「10票」ですから、かかるエラーは頻繁に起きうると言えます。おそらく調査をするたびにランキングは大きく入れ替わるでしょう。 このような調査が正当であるとは到底言えないのではないでしょうか?
以上の点から当該調査は、「真に患者にとって有益な医療関連情報を提供するため」の調査とは言い難いものです。 しかも、貴社は、かかる無責任な調査を一冊の冊子にまとめ、大部数を刊行し、大々的に宣伝しています。これは統計学について多くの知識をもたない国民の多数をミスリードするものです。 当院は、地域医療を責任もって担う立場から、かかる調査をあたかも正当で権威ある調査として売り出して憚らない貴社に対して厳重に抗議します。
また、当該調査では、当会の経営する「きよせの森 総合病院」は、産科部門で70位、眼科部門で34位にランクされています。当会は、このランク自体の是非を議論する立場にありません。 しかし、不当な調査においてランキングがなされているのであれば、それは当会の名誉を棄損するものとして看過することはできません。上記抗議と併せ厳重に警告いたします。
なお、貴社の姿勢には少なからずスキャンダリズムがあるように伺われます。 このことは、道徳的に問題のある医療機関に対して、貴社を買収しようという誘因をもたせる原因となるのではないかと危惧します。 消費者や善良な医療機関は、貴社が調査結果の発表するにあたって、貴社や一部の医療機関による不正行為が全くなかったかどうかを知る由はありません。 当院は、貴社が調査結果を発表する際に、公正さを第一に尊重し、正確な情報公開をする姿勢を示すこと、さらには、スキャンダリズムに基づく宣伝等を控えることが、信頼を回復する最も有効な方法と考え、助言するものです。
つきましては、下記の通り、質問し、要求致しますので、担当理事太田惠昌宛に至急お答え頂きたくお願い申し上げます。
記
当該調査において、全医療機関に対する回答数(貴社の表現では票数)を公開すること
各医療機関への票の地域的分布を公開すること
各医療機関への調査対象者のコメントを公開すること
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